深夜、激しい雨音で目が覚めました。時計を見ると20時40分。モノポールシェルターは幕体と耳が近いのです。うーん明日はどうするかなあ。

2014年8月26日

3時起床します。ダメだな、雨は全くやむ素振りがありません。しばらくシュラフの中で体を横たえていました。4時20分、いい加減寝疲れたので寝袋から出ます。

まずはストーブに火を入れます。朝食はカップヌードルリフィル。ゆっくり食べながら今日の行程を考えます。昨日の天気図では温暖前線が南から上がってくる感じでした。湿った空気を持ってくるでしょうから、冷たい空気の上にせりあがって、今雨が降っているのだと考えられます。昨日の予報では降ったりやんだり、しかし今は降りっぱなし。いや、あれは松本だから、それより標高の高いここは事情が違うぞ。頭の中でモデル図を書いてみます。

上空に寒気が入っているかどうかが分からないし、低気圧、そして前線の動きもわからない以上、予想の範囲でしかありませんが、これは今日中に雨はやむ!よし、行くぞ。

食べ終えたら食器を片付けサブザックに必要物品を詰めます。食糧、水、ファーストエイドキット。それに雪渓歩きが予想されるので軽アイゼン。タオル、サングラス。あとはロールペーパー。それをビニール袋に小分けして、さらに45ℓゴミ袋に入れて縛って防水にし、それをザックに入れます。9ℓしかないエクストラポケットはもう一杯です。もし、途中で晴れたら合羽を脱いでも入れるところがないな。細引きも持って行こう。

6時15分、雨が小雨になるのを待ってテントを出ます。
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歩きだしてすぐ、意外な近さで大曲まで来てしまいました。6時32分です。雨も弱くなっています。予想が当たったかな?
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大曲からまたまたわずか、6時47分に雪渓に出ました。MtDAXの軽アイゼンを装着し、一歩一歩踏みしめながら登ります。雪面は硬く、アイゼンはよく利きました。
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7時19分、天狗原分岐に到着。この辺りから再び雨が激しくなってきました。

8時06分、坊主岩小屋分岐。雨は変わらずに降っています。しかし風はなく、これなら登頂できるでしょうか?やや空腹を感じてきました。しかし、この雨の中でザックをあけると濡らしてはいけないものを濡らしてしまいます。雨除けがあるところまでは我慢するしかありません。水だけはハイドレーションを工夫して組んできたので問題なく補給できています。

播隆窟がありました。そこを使って雨をよけ、ザックをあけようと思いましたが、下山中の学生グループが写真を撮っていたので
「ちょっとそこいいですか~。」
と入って行くのはさすがに気まずいので素通りしました。

8時12分、そのすぐ上のくぼみを使ってザックを降ろし、1本取ります。
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雨に打たれながらレーションをほおばります。うーん、天候は回復しないなあ。空腹が解消されたらまた、歩行開始。

秋の気配を感じる季節ですが、まだまだ高山植物は咲いていますね。夏山真っ盛りという雰囲気ではさすがにありませんが。


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8時42分、殺生ヒュッテ分岐通過。下山してくる方々の情報では、稜線は風が吹き荒れているとのこと。穂先への登頂を断念している人が多いということですが、登ってきましたよ、という人もいました。この辺りまで来ても全く穂先は見えません。雨雲の中にあるのでしょうか。

9時26分、槍ヶ岳山荘到着。なるほど、これは風が強いですね。帽子を飛ばされないようにしっかりとかぶりなおしました。屋根の下でサックをあけ、レーションを食べます。さあ、どうするどうする。

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山荘の中から数人の人が出てきました。荷物は中に預かってもらったら、とアドバイスをいただきました。山荘の中に入れてもらうと、ストーブが焚いてあり、女性グループがストーブを囲っていました。

合羽から水が滴るので土間とはいえ、ちょっと気を使います。しばらく外の様子を観察します。

雨は全く変わりなく、降りっぱなしです。そして風も吹きっぱなし。しかし、突風はないように見受けられました。登っても景色は全く期待できないでしょうね。でも、空いている槍なんてそう滅多にあるものではないでしょう。それにここで登らずに帰るとすっきりしない気持ちを持って帰ることになりそうです。

9時45分、よし、行くぞ。意を決して外に出ます。風で合羽のフードがばたつきます。

案内板に導かれ、取り掛かりました。写真で見るよりは高度感もなく、落ち着いて登れます。ホールド、スタンスが豊富で、しかもほとんどがしっかりしていて安心して体重を預けられます。雨でぬれていてもしっかりとつかめば問題は感じません。ピンやくさりがありますが、登りではほとんど使わずに登れました。

一旦登ったら平坦の場所に出て、そこからまた登行です。風が強く吹き付ける時には4点確保で耐風姿勢、弱くなったらまた登るという感じで安全確実な登行を心がけました。
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2連梯子の下まで来ました。そこで、降りてきた方とすれ違いました。
「上はどうですか。」
「この梯子、2つ登ればそこが頂上ですけど、風が強くて結構厳しいですよ。」

登り出してすぐ、梯子の裏から強く風が入り、梯子から体をはがそうとされました。4点確保でこらえ、弱くなったらまた登行します。そんな調子でゆっくり上り、2つ目の最上部を登りきれば、登頂です。10時7分でした。

北のはずれに祠があります。そうだ、この裏が北鎌尾根だ、と覗こうとすると、ドン!と背中を押します。もちろん風です。
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やばいやばい、余計なことするもんじゃないね。祠の隣に私の慰霊碑が立っちゃうかもしれませんからね。

槍ヶ岳山頂にたった一人でいることはまれでしょうね。私の人生で最初で最後かも。でも、それを味わうのはもう十分です。記念写真撮って帰ろう。誰かとってくれる人は、、、、。いないか。仕方がありません。セルフシャッターで、、、、、。カメラが飛ばされちゃうぞ。それならこれしかないな。2秒セルフタイマーで自撮り。
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登頂2分、下山しましょう。長生きしたければここに長くいてはいけません。まだ年金だって払っただけです。もらう前にその資格をなくしてたまるか。いや、今日できた新たな目標だって達成していないぜ。眺望のよい時に槍ヶ岳に登頂するっていう目標が。下りはこっちの梯子ですね。
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下山していると、すれ違いに登って行くグループがいました。この荒天の中、よくやるよ。物好きもいたものです。本当に気を付けて下さいね。
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下りは比較的良いルートが割り当てられているようで、あっさりと下ることができました。

10時23分、槍ヶ岳山荘まで下りました。あとは元来た道を下るだけですね。楽勝!

雨が降り続いていたので、沢が増水していました。先行する若者2名組、ちょっとビビり気味だったかな?
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登山道は一部、沢と化しています。
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そしてあちらこちらから、登山道へ多量に水を入れる流れ込みができていました。
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行きにはこんなことにはなっていなかったのに。わずか数時間でものすごい変化です。自然の脅威を感じますね。
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12時09分、ババ平テント場到着です。合羽を脱ぎ、テントに入ります。ババ平連泊で正解、この激しい雨の中のテント設営では人生が嫌になっているかもしれません。

合羽の性能が良いからでしょう、衣類はあごと袖から流れ込んだところと、ズボンは裾が濡れているくらいでほぼドライでした。プロモンテのゴア合羽、なかなかいいですね。

しかし、一応すべて着替えました。完全にドライになった所で昼ごはんにします。

昼ご飯を終えたら、記録の整理。ん、テントの中に雨が入ってくるぞ。どこか穴が開いたか?いや、そうではありません。テントの生地に雨が当たると、その衝撃で結露がはじけて飛ぶのです。シングルウォールテントの限界だなあ。やはりフライがないと日本の山はきついですね。いや、わかって買ったのですけどね。

天井のループに細引きを通して靴下を干そうとしますが、細引きを通しただけでループが落ちてきました。なんじゃこりゃ?接着剤で止めてあっただけなので、それが劣化して剥がれてしまったようです。

モンベルさん、こういうことがあるとブランドの信頼なくしますよ。

13時を過ぎるころ、一段と雨は激しく降り、テントの中は結露が飛んで霧になっています。これいつまで続くんだろう。もうすべての衣類が湿ってしまいました。合羽着ていようかな、と思うくらいです。ブリーズドライテック モノポールシェルターの限度なのでしょう。

せっかく着替えた乾いた衣類をこれ以上濡らしたくはないので、シュラフカバーに入れた寝袋に避難します。そして、いつの間にか寝てしまいました。

15時30分、目が覚めました。小雨になっています。今のうちに水汲んでおこう。傘を取り出し、ウォーターキャリーをもって水を汲みに行きました。行ったといっても、本当にすぐそこ、狭いババ平の反対側です。

汲んでいる最中に雨が上がりました。空を見上げると青空が広がっています。少しでも干しますか。パワーショベルをお借りして物干しを作りました。
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今登れば槍ヶ岳はどんな表情を見せてくれるのでしょうね。
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夕食は鹿島槍の残り、ジャコごはんと麻婆茄子、それに味噌汁です。食後にはドリップコーヒー。ドリップした後の処理が大変なのですが、ジャコごはんの入れ物がファスナー付なので水分を出さずに持ち帰ることができます。ドリップコーヒーはそういう食事とセットなら気楽に楽しめますね。
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18時、妻にメールしました。
「今日は遅くまで起きているので、仕事が終わったら電話ください。」
その10分後、電話が来ました。今日の報告と、明日の予定を伝えました。

だいぶ夜遅くなってしまいましたが、18時30分、就寝しました。

夜半に目が覚めました。時計を見れば22時10分です。雨は止んだままです。そうだ、きっと星が見られるぞ。テントのファスナーを首が出せるだけ開け、顔の部分だけめくりました。思った通りです。一面の星が暗闇を照らしていました。立て続けに流れる流星。天頂には天の川がくっきり見えます。人口の明かりは一切見えません。

例によって星が多すぎ、星座を結ぶのに骨が折れます。星座盤持ってくればよかったかな。夏の大三角形、それを元に白鳥座、こと座、わし座などは見つけられましたが、それ以上はどうもよくわかりませんでした。明日の天気はどうなんでしょうか。まあ、これだけ晴れていれば大丈夫かな。30分ほど眺めたらテントのファスナーを締めました。


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    あれ~~! 大雨の中を登っちゃったんだ。
    気合いが入ってるなあ!

    今度は天気を見定めていく、と決めたみたいですね。
    山って、降っても晴れても面白いもんね。 削除
    2014/8/29(金) 午前 0:25
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    槍ヶ岳登頂おめでとうございます。
    かなり厳しい登山だった様子ですね(^_^;)
    登山道があっと言う間に川になるって
    怖いですね~(´・Д・)」
    渓流釣りなら経験がありますが、急な斜面じゃ
    オラもビビってしまいますよ(笑) 削除
    2014/8/29(金) 午前 8:38
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    山のMochiさん、コメントありがとうございます。

    雨が降らなければ雨の山を歩けませんから。能力の範囲内であれば、ですけど。装備も体力も。

    槍沢ルートは山行十話の舞台にもなっていたので、思い出しながら歩きました。本体と合流予定だった殺生ヒュッテ、するとそこを下ったところにある雪渓がグリセードをしたところか、ずいぶん正規ルートから離れているなあ、とか。ここで滑落停止機能を持たない拾った棒でグリセードしたとは、バッカス隊長の胆力には畏怖の念を抱いてしまいます。 削除
    2014/8/29(金) 午前 9:00
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    kikuさん、コメントありがとうございます。

    おかげさまで、無事に、そして楽しく登ることができました。写真で見るほど実は厳しい山行ではなかったんです。撮影の仕方でそう見えるようにしてみました。

    学生時代、渓流釣りの方とテント場で一緒になり、イワナをごちそうになったことがあります。沢登りをしている我々でも入らない山深い渓流に、激しい流れの中、ザイルなしで腰まで浸かって釣る姿にはびっくりしました。 削除
    2014/8/29(金) 午前 9:06
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  • 槍の山頂、独り占めだったんですね。雨なればこそ、ですね。
    なんか北鎌って惹かれるものがあります。岩にペンキで「←キタカマ」書いてある方向から現れた登山者に畏敬の念を感じたことを思い出しました^^ 削除
    やまさん
    2014/8/29(金) 午後 3:16
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    槍ヶ岳無事登頂オメデトございます( ´∀`)
    雨はやっぱりコワイですね。夕暮れ前の青空はホッとさせます。 削除
    2014/8/29(金) 午後 7:14
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    やまさんさん、コメントありがとうございます。

    キタカマはいずれやらなければいけないだろうな、と思っていますが、まだまだ準備が必要だと思っていますので、実行まで数年かかりそうです。

    北鎌縦走達成者は尊敬に値するとは思いますが、入る人が多くなってルートが分かりやすくなってきたので、一昔前と比べ、ずいぶん難易度は下がってきているそうです。また、無謀な挑戦だったけどたまたま登り詰めることができただけ、という人も少なからずいるそうなので、そうならないように気を付けたいものです。 削除
    2014/8/30(土) 午前 11:44
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    くまそんさん、コメントありがとうございます。

    写真で見ると確かに悲惨な雰囲気に見えますが、実際はそれほどひどいものではありませんでした。危険を感じることはなかったです。文章はちょっと「盛った」かな? 削除
    2014/8/30(土) 午前 11:46
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