息子は自他ともに認めるスポーツバカです。
 
特に嫌いなのが読書です。小学校高学年で、低学年用の本さえまともに読破できませんでした。せめて漫画だけでもと買い与えたのがキャプテン翼です。さすがにサッカーの好きな男ですから、これだけは読みました。
 
高校生になると、朝授業前に読書の時間があります。本人なりに何か読んでいるようですが、活字を読みなれていないのでとにかく読むのが遅いのです。何か月もかかってようやく短辺を1つ読み切れるという感じです。もちろん漫画も読みません。
 
そんな男ですが、本屋に一緒に行ったとき、これ買いたいと持ってきたのが99の涙という本でした。たいした価格ではないので、私の欲しい本と一緒に買ってやりました。なかなか感動する内容だったようで、読みながら泣きそうになったと言っていました。こんな短編集でも読むようになれば一つの進歩です。高校の読書の時間は有効に働いているのでしょう。
 
さて、それを読み終わった息子は、次に何を思ったか、私の書庫から取り出して読みだしたのが「あしたのジョー」です。原作は高森朝雄、梶原一騎の変名として有名ですね。
 
理由を聴いてみると、なんでも空手部の連中が面白いと言っていたから読みだしたのだそうです。彼が小学校3年生の時、1年間私と一緒にシュートボクシングのジムに通っていました。その時に、読むことを薦めたのですが、1巻の半分も行かないところでギブアップ、そのままになっていました。
 
さすがに高校生にもなればギブアップはしません。いや、それどころかはまりにはまってついに
「少年院に入ってみたいなあ、どんなところなんだろうね。」
と言い出す始末。私も入ったことないので全く答えようがありませんけど~。
 
私も改めて読み返しています。さすがは梶原一騎、そしてちばてつやの画です。引きこみます。感動させます。そして、泣かせます。漫画とバカにしたものではありません。
 
ご承知の通り、山谷のドヤ街が舞台です。山谷は高度経済成長に必要とされ、使い捨てにされ、そして忘れられた人々の住むところでした。それから40年が経過し、山谷も様変わりしてきました。
 
しかし、時代は繰り返すのでしょうか。簡易宿泊所は場所をネットカフェに移し、日雇い人夫は派遣労働者となり、若者がまともに稼げない時代になってきています。
 
このままでは息子もたいして稼げる仕事には就けないでしょう。また、違法労働や労働者使い捨てに遭わないとも限りません。そんな中でも、夢を持って生きるためには、やはり好きなことがぞんぶんにできる人生ではなくてはならないと考えています。サッカーが好きなら、とことんそれを突き詰めて、行けるところまで行けばいいのです。例えそれが物にならなくても、好きな事を存分にやった結果なら何かにはなることでしょう。
 
ジョーは倒されても、倒されても、血反吐を吐きながら立ち上がります。息子にもその根性を期待し、よい人生だと本人が思えるようになって欲しいと願っています。
 
そして社会に格差が、なるべく少なくなるような状態になって欲しいと願っています。彼だけでなく、友人たち全員が普通に働けて、普通の暮らしができるような。
 
息子は電車の中でもあしたのジョーに夢中になり、一駅乗り過ごしてしまったそうです。遅刻はしなかったそうですから、それならいいか。